行元寺は、千葉県いすみ市にある天台宗の寺院です。山号は東頭山、院号は無量寿院。本尊は阿弥陀如来で、古くから房総地方の信仰の中心として多くの人々に親しまれています。
行元寺は、嘉承年間(848年 - 851年)に慈覚大師・円仁によって現在の大多喜町に創建されたと伝えられています。その後、鎌倉時代初期に現在のいすみ市荻原へ移され、寺名を「行元寺」と改めました。さらに天正年間(1573年 - 1592年)には現在地に移されました。
江戸時代には幕府から朱印状を与えられ、天台宗の拠点寺院として隆盛を極めました。特に学問寺としての役割を果たし、多くの僧侶が修行を行った場所でもあります。
中世から近世にかけて、戦乱や災害によって度々被害を受けましたが、その都度復興を果たしています。冷泉大納言や土岐氏といった歴史上の重要人物が再興に尽力し、現在の堂々たる姿を取り戻しました。
享保20年(1735年)に建立された山門は、荻原の交差点から山道を上ると見えてきます。朱色の外装が印象的で、左右には仁王像が配されています。
本堂は天正14年(1586年)に建立され、元禄時代に改築された房総屈指の大建築物です。壮大な佇まいは訪れる人々を圧倒します。
江戸時代に建てられた客殿は、「波図彫刻」などの名作を残す貴重な建物です。本堂の右手に位置し、十三重塔とともに荘厳な雰囲気を醸し出しています。
平安時代に作られた阿弥陀如来立像は千葉県指定有形文化財であり、その穏やかな表情と優美な姿が特徴です。この仏像は、平重盛の守り本尊であったと伝えられています。
鎌倉時代の「善光寺三尊」や「龍鈴」、法華曼荼羅図など、行元寺には多くの重要な仏教美術品が伝わっています。それぞれが深い歴史と信仰の背景を持っています。
徳川家御用の名工・高松又八郎邦教による欄間彫刻は、桃山文化の華やかさを象徴しています。龍や牡丹、錦鶏といった題材が精緻に彫られ、当時の技術の粋を今に伝えています。
「波を彫らせては天下一」と称された初代・伊八の彫刻は、写実的な手法を用いて波の動きを巧みに表現しています。その作品は北斎の「神奈川沖浪裏図」にも影響を与えたといわれています。
等随作の「土岐の鷹」は、提等琳の流れを汲む杉戸絵として現存しています。北斎との交流があり、仏教美術と江戸文化の結びつきを感じさせる貴重な作品です。
行元寺は千葉県いすみ市荻原2136に位置し、JR外房線・いすみ鉄道の大原駅から車で約10分の場所にあります。歴史と芸術の調和を体感できる行元寺をぜひ訪れてみてください。