歴史
創建からの歩み
誕生寺は日蓮の生家跡に建立され、日蓮の生誕地としての由緒があります。しかし、自然災害の影響で何度も移転を余儀なくされました。特に、室町時代の1498年(明応7年)に発生した明応地震と、江戸時代の1703年(元禄16年)に起きた元禄地震による大津波で大きな被害を受けました。これにより、生家跡伝承地は海中に没し、現在地に移転されています。
江戸時代の再興と焼失
江戸時代に第26代日孝が水戸光圀の支援を受けて七堂伽藍を再興し、寺名を「小湊山誕生寺」と改めました。しかし、1758年(宝暦8年)には大火災が発生し、仁王門を残して寺の多くが焼失しました。その後、1842年(天保13年)に第49代日闡が現存する祖師堂を再建しました。
近代の復興
近代に入ると、大正天皇の病気平癒の祈願所として利用され、昭和から平成にかけて「50万人講」が発願され、多くの諸堂が復興されました。1992年(平成4年)には落慶法要が行われ、誕生寺は新たな姿となりました。また、2001年(平成13年)には「誕生寺の線香と磯風」がかおり風景100選に選定されています。
伽藍
誕生寺の境内には、日蓮聖人に関連する多くの施設や建築物があります。それぞれが歴史的・文化的価値を持ち、見どころが満載です。
仁王門
建立年:1706年(宝永3年)
改修:1991年(平成3年)
入母屋造りの二重門であり、間口は8間にもおよびます。宝暦の大火を逃れ、現在も誕生寺最古の建造物として残っています。
特徴
門の両側には金剛力士像(仁王像)が安置されており、これらは松崎法橋の作とされています。また、楼上には左甚五郎作と伝えられる般若の面が設置されています。
千葉県指定の有形文化財として、歴史の重みを感じさせる貴重な建造物です。
本堂
建立年:1991年(平成3年)
本堂は単層入母屋造りの本瓦葺で、間口7.8間、奥行き8.8間の広さを誇ります。堂内には水戸光圀が寄進した十界本尊木像(大仏師左京康裕作)が安置されています。
天井画
本堂の天井には、石川響による仏教植物をテーマにした美しい天井画が82枚描かれており、訪れる人々の目を引きます。
祖師堂
建立年:1842年(天保13年)
祖師堂は入母屋造りで総欅造りという贅沢な建築様式です。堂内には日蓮聖人像が安置されており、聖人像の御宮殿は明治天皇の女官たちによる寄進によるものです。
天女の絵
堂内右側の天井には南部藩士である相馬大作が描いた天女の絵があり、細部にわたって繊細な美術が施されています。
寄進仏具
堂内の仏具類は、明治天皇の生母・中山慶子一位局や大正天皇の生母・柳原愛子一位局によって寄進されたもので、非常に貴重な歴史的文化財です。
本師殿宝塔
完成年:1988年(昭和63年)
宝塔は総高26メートルの規模を誇り、塔体にはインド産の砂岩が使用されています。内陣には西村房蔵作の釈尊像が安置され、壁面には50万枚の散華が奉安されています。
さらに、塔内には13万3千枚におよぶ自我偈の写経が収蔵され、仏教信仰の象徴として広く尊ばれています。
宝物殿
開館年:1989年(平成元年)
宝物殿では、日蓮の真筆や歴代の墨蹟、里見家・加藤清正・水戸光圀などの遺墨が展示されています。また、明治皇室より拝領した貴重な品々や、日蓮聖人の御一代伝記画18枚など、見ごたえのある展示品が揃っています。
客殿
建造年:1933年(昭和8年)
客殿は総檜造りの格式ある建物で、宮家の接待所として建造されました。内部には「上段の間」や「牡丹の間」「桜の間」など、美しい装飾が施された部屋があります。
上段の間
床柱や違い棚には樹齢千年の桑の銘木が使用され、格式の高さを感じさせます。
牡丹・桜の間
それぞれの部屋の襖絵には牡丹や桜が描かれており、四季の風情が感じられます。
竜王殿
1890年(明治23年)に有栖川宮家代々の位牌を祀る霊屋として建立されました。奥庭には供養塔が並び、女官たちの供養が行われています。
蓮華ヶ淵
蓮華ヶ淵は、日蓮大聖人の生家跡と伝えられていますが、明応・元禄の大地震によって海中に没してしまいました。
名前の由来
日蓮大聖人が誕生した際に、時ならぬ青蓮華が咲き誇ったことから「蓮華ヶ淵」と呼ばれるようになりました。
現在の様子
現在は遊歩道が整備されており、干潮時には弁天島まで歩いて渡ることができます。
文化財の紹介
建造物以外の文化財
- 石造三層塔:鴨川市指定有形文化財
- 大壁画 散華霊鷲山:石川響作の見事な壁画
- 富木殿女房御返事:日蓮の真蹟
- 薬王丸画像:歴史的価値のある貴重な資料
- 誕生寺古図:寺の歴史を物語る古地図
願満の祖師と鯛
1991年(平成3年)に祖師堂の日蓮像を修理した際、胎内から室町時代の日静筆の古文書が発見されました。この文書には「生身の祖師」の名と日蓮の誕生に関する記録が記されており、誕生寺の信仰をさらに深めました。
また、日蓮像の「願満の祖師」のお使いとして鯛が用いられており、誕生寺では「願満の鯛」という縁起物が販売されています。地元では、この鯛を食べることを避ける習慣があります。
アクセス
誕生寺は、JR東日本外房線安房小湊駅から車で約5分の場所にあります。また、周辺には千光山清澄寺や妙日山妙蓮寺など、日蓮宗にゆかりの深い寺院が点在しています。
観光の注意点
誕生寺では初日の出を拝むために多くの人が訪れますが、周辺地形の関係で、寺前では日の出が遮られることがあります。岬の先まで歩く必要があり、海岸線は暗いので注意が必要です。
まとめ
誕生寺は日蓮聖人ゆかりの地として知られ、歴史的建築物や文化財が豊富に揃う由緒正しい寺院です。境内の壮大な伽藍や、歴史ある文化財を堪能しながら、日蓮聖人の生誕地としての深い歴史を感じることができます。また、蓮華ヶ淵や遊歩道から望む景色は、訪れる人々に癒しと感動を与えてくれます。
ぜひ一度、誕生寺を訪れ、その歴史と美しさに触れてみてください。