千葉県鴨川市に位置する大山寺は、真言宗智山派に属する歴史ある寺院で、「大山不動」「大山不動尊」として広く親しまれています。 山号は「高蔵山」、本尊は不動明王です。成田山新勝寺や雨降山大山寺と並び、「関東の三大不動」と称される名刹でもあります。
大山寺の創建は奈良時代に遡り、東大寺の開祖である良弁僧正によると伝えられています。『大山寺略縁起』には、良弁僧正が相模の大山から東の空にたなびく紫雲を見て訪れた場所で、不動明王の啓示を受け、この地に寺を建立したと記されています。
僧正はこの地の主であった清光翁から山を譲り受け、不動明王を祀ることで大山寺の基盤を築きました。この由来に基づき、大山寺は山岳信仰と神仏習合の特色を持つ寺院として発展しました。
鎌倉時代には将軍源頼朝が戦勝祈願を行い、鎧や太刀を奉納したと伝えられています。室町時代には足利尊氏による経典の寄進が行われるなど、時の権力者たちからの厚い庇護を受けました。
江戸時代には不動堂の再建や、観光地としての発展により、多くの参拝者を集めました。当時は参道に宿坊が並び、賑わいを見せていました。
明治期の神仏分離令と修験道の禁止令により、大山寺は大きな打撃を受けます。一時は僧侶が不在となり、寺の財産も散逸しましたが、地元住民の信仰心に支えられ、再建と維持が進められました。
昭和には台風被害からの復旧や施設の修復が行われ、平成19年(2007年)には宗教法人として独立し、真言宗智山派の寺院として現在に至っています。
大山寺の不動堂は、江戸時代後期の享和2年(1802年)に建てられました。その正面を飾るのは、「波の伊八」の名で知られる武志伊八郎信由が彫った力強い竜の欄間です。これらの彫刻と不動堂本尊を安置する厨子は、千葉県指定の有形文化財です。
本尊の木造不動明王像坐像は鎌倉時代中期の作で、千葉県の指定有形文化財に指定されています。この像は通常非公開ですが、毎年2月3日の節分会で特別に開帳されます。
千葉県鴨川市平塚1718
JR内房線「安房鴨川駅」から路線バスで25分、「大山橋」下車後徒歩20分。
JR外房線「保田駅」から路線バスで25分、「金束駅」下車後徒歩20分。
東京湾フェリー「金谷港」から路線バスで30分、「金束駅」下車後徒歩20分。
大山寺は、歴史と文化が深く根付いた寺院であり、多くの文化財と自然美を楽しむことができます。地元住民の支えによる復興と維持の歴史も、大山寺を訪れる際の感慨深い要素のひとつです。毎年2月3日の節分会は、貴重な文化財を目にする特別な機会ですので、ぜひ足を運んでみてください。