石堂寺は、千葉県南房総市石堂に位置する天台宗の寺院です。山号は長安山、院号は東光院と称し、本尊には十一面観世音菩薩が祀られています。安房国三十四観音霊場第20番札所であり、東国花の寺百ヶ寺の千葉14番にも指定されています。
南房総最古の寺院であり、国指定重要文化財をはじめとする歴史的価値の高い建築物が点在し、自然に囲まれた静かな境内は訪れる人々の心を癒してくれます。由緒ある文化財を数多く所蔵しており、地域の歴史と文化を伝える重要な寺院です。
石堂寺の創建には複数の伝承があります。726年(神亀3年)に行基が開創したとされる一方で、708年(和銅元年)に奈良の僧・恵命と東照が創建し、851年から854年(仁寿年間)には円仁(慈覚大師)が再興したとの説もあります。
当初は「石塔寺」と呼ばれ、滋賀県の阿育王山石塔寺や群馬県の白雲山石塔寺と共に日本三塔寺の一つに数えられていました。1487年(文永19年)の火災で全焼しましたが、当地を支配していた丸氏の支援により、1522年(大永2年)までに再建されました。また、室町時代末期に寺で養育された足利頼氏の幼名「石堂丸」にちなんで、名称が「石堂寺」に改められました。
石堂寺の境内は、千葉県郷土環境保全区域に指定された小高い山の中に広がっています。四季折々の自然が美しく、春には梅や桜、菜の花が咲き誇り、夏には清々しい緑に覆われ、秋には紅葉が境内を彩ります。
また、境内には整備された遊歩道があり、散歩やバードウォッチングを楽しむこともできます。
永正10年(1513年)に建立された室町時代の建築で、唐様・寄棟造が特徴です。本堂は桁行3間、梁間4間の規模を持ち、県内最大級の国指定木造建築物として高く評価されています。
本尊である十一面観世音菩薩立像および厨子は国指定文化財であり、堂内には平安末期の仏像群が安置されています。本堂は丑年と午年に特別御開帳され、多くの参拝者が訪れます。
本堂とほぼ同時期の室町時代に建てられ、国指定重要文化財に指定されています。本堂の厨子や棟札も含めて、歴史的な価値が非常に高い建造物です。
庫裏には、江戸時代に活躍した名彫刻師武志伊八(通称「波の伊八」)の彫刻が施され、安房地方の伝統的な彫刻文化を感じることができます。
多宝塔は天文14年(1545年)、室町時代に建立された建物です。上層唐様の折衷様式で造られ、関東に現存する江戸時代以前の多宝塔は非常に少なく、貴重な建築物です。
内部には慶派仏の千手観音像が安置されており、この像は千葉県指定文化財に認定されています。
安土桃山時代の建築である薬師堂は、茅葺の屋根が特徴です。木造三間四方の仏堂で、内部には薬師如来と毘沙門天が祀られています。
釿(ちょうな)削りの床が残るなど当時の技術を感じることができ、寅年には特別御開帳が行われます。
室町時代末期から桃山時代にかけて建立されたとされる山王堂は、三間社流造の建築様式で建てられています。堂内には日吉山王が祀られ、石堂寺の鎮守としての役割を果たしています。
天明3年(1783年)に建築された鐘楼堂は、南房総市指定有形文化財に認定されています。梵鐘は元弘元年(1331年)に初めて鋳造され、その後、寛文3年(1663年)に再鋳されました。
堂内には美しい彫刻が施され、歴史的な趣を感じさせる建物です。
青銅製の宝篋印塔は、天保13年(1841年)に石神村の冶工・鈴木伝左衛門正尹によって鋳造された貴重な宝塔です。
江戸時代末期に活躍した名彫刻師武志伊八郎は「波の伊八」の異名を持ち、波の彫刻で名を馳せました。伊八の彫刻は、浮世絵師葛飾北斎にも影響を与えたとされ、その技術は後世にも語り継がれています。
石堂寺の作品「波に水鳥」は寛政3年(1791年)、伊八が39歳頃に制作したものとされています。もともと多宝塔に取り付けられていましたが、現在は修復後、屋内に保存・展示され、拝観料300円で一般公開されています。
旧尾形家住宅は、江戸時代中期の享保13年(1728年)に建築された分棟(別棟)型の民家で、南方系の建築様式を取り入れています。もともとは珠師ヶ谷村(旧丸山町)に建てられたものが、昭和46年・47年に現在地へ移築されました。
この住宅は、当時の生活様式や建築技術を知る上で貴重な資料となっています。
石堂寺では年間を通じてさまざまな行事が行われています。初詣や節分祭、除夜の鐘など、地域住民や観光客に親しまれる伝統行事が開催されます。
石堂寺へのアクセスは館山日東バスを利用し、「石堂寺前」バス停で下車します。公共交通機関を使えば、快適に訪れることができます。
石堂寺は、歴史的価値の高い建築物と美しい自然に囲まれた南房総最古の寺院です。境内に広がる四季折々の風景や、名工・武志伊八の彫刻、文化財として指定された本堂や多宝塔は必見です。
訪れる人々は、歴史と自然が織り成す静寂な空間で心安らぐひと時を過ごすことができるでしょう。ぜひ一度、石堂寺を訪れ、その魅力に触れてみてください。