設立の背景
明治時代から、日本には東京、京都、奈良の3か所に美術系の博物館が存在していましたが、歴史系の国立博物館が必要とされていました。この考えは、歴史学者の黒板勝美が昭和戦前から訴えていたものです。第二次世界大戦後、日本政府は「明治百年」記念事業の一環として、歴史民俗博物館の設置を決定し、展示内容や建設地の検討が進められました。
佐倉城址に設置された理由
歴博は、江戸時代には佐倉藩の藩庁があり、明治時代には陸軍佐倉連隊が置かれていた歴史ある佐倉城址に設置されました。この地は、日本の歴史を象徴する場所として選ばれ、博物館の敷地一帯は発掘調査と整備が行われました。佐倉城址は現在、佐倉城址公園として整備されています。
展示内容と特徴
展示の構成
国立歴史民俗博物館の展示は、主に「考古、歴史、民俗」の3つの分野に分かれています。展示総件数は約9千件、収蔵資料は約22万点に及びます。展示は、縄文時代から日本列島に人々が住み始めた数万年前から、1970年代までの日本の歴史と文化に焦点を当てています。
常設展示
常設展示室は、第1展示室から第6展示室までの6つに分かれており、それぞれ異なる時代やテーマに焦点を当てています。第1展示室では先史・古代を扱い、旧石器時代から奈良時代までの歴史を展示しています。第2展示室は中世、第3展示室は江戸時代を主題にし、第4展示室は民俗文化を紹介しています。第5展示室では明治から昭和初期の近代史が、第6展示室では戦後から高度経済成長期の現代史が展示されています。
特別展示とレプリカの活用
日本の文化財には、脆弱な素材を使用したものが多いため、歴博では実物資料の代わりにレプリカを多用しています。また、常設展示では取り上げられない実物資料は、特別展示で公開されることもあります。
博物館の収蔵品
収集資料と製作資料
歴博の収蔵品は「収集資料」と「製作資料」に分類されます。「収集資料」は古文書、古記録、考古資料、民俗資料など、実物の歴史資料です。一方、「製作資料」は建造物や古墳、集落の復元模型や遺物のレプリカです。博物館開館時に文化庁から管理が移管された資料も多くあります。
特色あるコレクション
歴博の収蔵品には、個人のコレクションが一括して収蔵されたものもあり、特色あるコレクションとして以下のものが挙げられます。
- 田中忠三郎が発掘した縄文遺跡の考古学資料約1万点、民俗資料を含む約2万点
- 野村正治郎収集の近世衣装コレクション(小袖、宮廷衣装、櫛、髪飾りなど111件)
- 秋岡武次郎収集の古地図コレクション(111件)
国宝および重要文化財
歴博の収蔵品には、国宝や重要文化財に指定されているものも多く含まれます。たとえば、額田寺伽藍並条里図や後宇多院宸記などが国宝に指定されています。重要文化財としては、絵画や書跡、彫刻、工芸品など多岐にわたる資料が収蔵されています。
国宝
以下は、歴博が所蔵する代表的な国宝です。
- 『額田寺伽藍並条里図』
- 後宇多院宸記
- 宋版漢書(慶元刊本)61冊
重要文化財
重要文化財に指定されているものには、次のような絵画や工芸品があります。
- 『洛中洛外図屏風』
- 木造地蔵菩薩立像
- 黒韋威肩白腹巻 大袖付
博物館の役割と組織
研究機関としての役割
国立歴史民俗博物館は、展示施設であると同時に、考古学、歴史学、民俗学の研究機関としても重要な役割を果たしています。開館当初から、大学共同利用機関としての位置付けを持ち、研究と教育活動を推進しています。展示資料の保存や修復、博物館運営におけるコンピュータの活用など、幅広い分野での研究が行われています。
組織の構成
歴博の組織は、情報資料研究部、歴史研究部、考古研究部、民俗研究部の4つの部門に分かれています。それぞれの部門はさらに細分化され、専門的な研究が行われています。2004年には大学共同利用機関法人人間文化研究機構に移行し、研究組織が再編されました。
まとめ
国立歴史民俗博物館は、日本の歴史、民俗学、考古学に関する総合的な展示と研究を行う重要な施設です。その展示は、日本の歴史を広範にカバーし、学術的な研究成果を一般に公開することで、教育的な役割も果たしています。また、豊富な収蔵品や展示内容は、訪れる人々に日本の歴史と文化を深く理解させる貴重な機会を提供しています。